「問いが変わると、見える世界が変わる」シリーズ[1/3]
私たちは毎日、たくさんの情報に触れています。ニュースを見て、人と話し、会議に出て、顧客の声を聞き、本を読み、必要があればAIを使って調べる。今は、情報が足りない時代ではありません。むしろ、情報が多すぎるくらいです。
それでも、「必要な情報が見つからない」「いろいろ調べているのに、次の一手が見えない」「考える材料はあるのに、何を大切にすればいいのか分からない」と感じることがあります。
こういう時、さらに情報を増やそうとすることもできます。ただ私は、その前に一度、「今、自分はどんな問いを持っているだろう」と考えてみます。問いによって、同じ情報に触れていても、見えてくるものが変わることがよくあるからです。
私は、問いには答えを出すこととは別に、「何を見るかを変える働き」があると思っています。いわば、問いは世界を見るための「メガネ」のようなものです。
情報が足りないのではなく、問いがないこともある
たとえば、新しい事業について考えているとします。「何かいいアイデアはないだろうか」と情報を探すこともできます。一方で、「今のお客様が、まだ言葉にできていない困りごとは何だろう」という問いを持って日常を見ることもできます。
この二つでは、同じ人と話していても、聞こえてくるものが変わります。いつもなら聞き流していた一言が気になったり、顧客からの何気ない反応に引っかかったり、これまで関係がないと思っていた他業界の事例が、急に自分たちの仕事とつながって見えたりすることがあります。
決して情報そのものが突然増えたわけではありません。今までも、その情報はそこにありました。ただ、問いを持ったことで、それを意味のある情報として受け取れるようになった。そういうことがあるのだと思います。
問いは、答えを出すためだけにあるのではない
私たちは「問い」というと、答えを出すためのものだと考えがちです。「どうすればいいか」と問い、答えを考える。もちろん、それも問いの大切な役割です。
ただ、問いにはもう一つ、「何を見るかを変える」という働きがあります。同じ景色を見ていても、どんなメガネをかけているかによって、目に入ってくるものは変わります。
「なぜ売上が伸びないのか」という問いで見るのか。「お客様は、どこに価値を感じてくれているのか」という問いで見るのか。「この社員には何が足りないのか」と見るのか。「この人は、何を大切にして仕事をしているのか」と見るのか。同じ会社、同じ社員、同じ顧客を見ていても、問いが違えば、見えてくるものも変わります。
問いは、答えを導くためのものでもありますが、それ以前に、どこに目を向けるかを決めるものでもあるのだと思います。
トニー・ファデルは、同じものを違う問いで見た
このことを考える時、Nestの創業者、トニー・ファデルの話は分かりやすい例だと思います。ファデルは、iPodやiPhoneの開発にも携わった人物です。
彼が後にNestを立ち上げるきっかけの一つになったのが、家庭に昔からあるサーモスタット(建物全体のエアコンを一括管理するコントロールパネル)でした。サーモスタットそのものは珍しいものではありません。多くの家庭にあり、多くの人が日常的に目にしていたものです。
しかしファデルは、それを当たり前として受け入れるのではなく、「なぜ、もっと使いやすくならないのだろう」「なぜ、製品の側が人に合わせられないのだろう」という問いを持ちました。
すると、他の人にとっては「ただのサーモスタット」だったものが、「まだ改善できるもの」として見えてきます。そこに、新しい事業の可能性が生まれました。
もちろん、問いを持てば必ず新しい事業が生まれるという話ではありません。ただ、同じものを見ていても、どんな問いを持っているかによって、そこから受け取る意味が変わる。この例は、そのことをよく表していると思います。
問いが新しい情報を突然つくったのではありません。目の前にあったものの意味を変えた。そこが大事なのだと思います。
経営でも、問いが変わると見えるものが変わる
これは、仕事や経営でも同じ要素があるのではないでしょうか。たとえば、「どうすれば売上を上げられるか」という問いを持つことは、もちろん大切です。その問いを持てば、営業方法、広告、価格、販売、商品構成といったものに目が向きやすくなります。
一方で、「なぜ今のお客様は、私たちを選んでくれているのか」と問いを変えてみると、違うものが見えてくるかもしれません。商品そのものではなく、担当者との関係性が評価されているのかもしれない。対応の速さかもしれない。説明の分かりやすさかもしれない。困った時に相談しやすいことかもしれません。
「売上」という数字だけを見ていた時には背景にあったものが、問いを変えることで前に出てくることがあります。
組織を見る時も似た要素があるように思います。「どうすれば社員をもっと動かせるか」という問いを持つのと、「社員は今、何を見ながら仕事をしているのか」という問いを持つのとでは、見えてくるものが違ってきます。前者なら指示や目標、評価制度に目が向くかもしれません。後者なら、本人の価値観、仕事への納得感、上司との関係、役割の曖昧さ、未来への見通しといったものが見えてくるかもしれません。
どちらの問いが正しいということではありません。大切なのは、自分がどんな問いを持っているかによって、見えている世界が変わるということです。
問いには、自分の前提が含まれている
問いについて、もう一つ大切だと思うことがあります。それは、問いの中には、自分の前提が含まれているということです。
たとえば、「なぜこの社員は動かないのか」という問いには、「この社員は動いていない」という前提があります。一方で、「この人が力を発揮しにくくしているものは何だろう」と問いを変えると、本人だけではなく、環境や関係性にも目が向きます。
「なぜこの事業はうまくいかないのか」と問えば、うまくいっていない理由を探します。しかし、「この事業の中で、すでに機能しているものは何だろう」と問えば、今まで見落としていた強みが見つかるかもしれません。
問いを変えることは、単なる言葉の言い換えではなく、どんな前提で現実を見るのかを変えることでもあります。
「正しい問い」を最初から探しすぎなくていい
ここまで書くと、「では、正しい問いは何ですか」と思うかもしれません。ただ私は、最初から完璧な問いをつくる必要はないと思っています。
最初は、「どうしたらいいだろう」でもいい。そこから、「自分は何に困っているのだろう」「何を変えたいのだろう」「逆に、何は変えたくないのだろう」と、少しずつ問いを変えてみる。
問いを変えていくうちに、自分が本当に考えたかったことが見えてくることがよくあります。問いそのものを問い直すことも、考えるということの一部なのだと私は思います。
問いを持つと、必要な情報が入り始める
私たちは、情報が足りないと思うと、すぐに外へ探しに行きます。検索する。本を読む。詳しい人に聞く。AIに聞く。どれも、とても有効です。
ただ、情報を増やす前に、問いを考えてみる。「自分はいま、本当は何を知りたいのだろう」「何が分かれば、次の判断ができるのか」「今、自分が見るべきものは何だろう」と考えてみる。
そうやって問いという「メガネ」をかけると、今まで何となく見ていたものの中から、違う情報が入ってくることがあります。人の一言、数字の変化、顧客の反応、自分の違和感。どれも以前からそこにあったものかもしれません。それでも、問いが変わることで意味を持ちはじめます。
だから私は、問いは答えを出すためだけのものではなく、必要なものを見るための準備でもあると思っています。
最後に、一つ問いを置きたいと思います。
いま、あなたはどんな問いという「メガネ」をかけて、日常を見ているでしょうか。
そして、そのメガネを少し変えたとしたら、これまで見えていなかった何が見えてくるでしょうか。
