「問いが変わると、見える世界が変わる」シリーズ[2/3]
前回は、問いには「答えを出す」だけではなく、「何を見るかを変える」働きがあるという話を書きました。問いは、世界を見るためのメガネのようなものです。同じ出来事に触れていても、どんな問いを持っているかによって、見えてくるものは変わります。
では、なぜ問いを持つと、それまで気づかなかった情報まで入ってくるようになるのでしょうか。私は、その状態を「レセプターが開く」と表現することがあります。情報そのものが突然増えるわけではありません。これまでにもそこにあった情報を、自分の側が受け取れるようになる。そのことについて、今回は少し考えてみたいと思います。
「見えている」と「受け取っている」は同じではない
有名な心理学の実験に、「見えないゴリラ」として知られるものがあります。参加者は、「白い服を着た人たちが何回パスをしたか数えてください」と指示された後に、複数の人がバスケットボールをパスする映像を見せられます。参加者は、間違えないようにボールの動きを注意深く追います。
ところが、その映像の途中を、ゴリラの着ぐるみを着た人物が横切ります。それでも、その存在に気づかない人がいました。ゴリラは隠されていたわけではありません。映像の中に、はっきり存在しています。それなのに、注意が「パスの回数を数える」という直近の課題に向いていることで、目の前にある別の情報を受け取れないことがある。
この実験から分かるのは、私たちは目に入っているものを、そのまますべて情報として受け取っているわけではない、ということです。これは、仕事でも同じなのではないでしょうか。同じ会議に出ていても、同じお客様と会っても、同じ数字を見ていても、人によって印象に残るものは違います。そこにある情報が違うのではなく、「何に注意を向けているか」が違うのです。
レセプターが開くと、同じ景色から違うものを受け取る
日常でも、似たことがあります。家を買おうと思い始めると、急に街の住宅広告がよく目に入るようになる。車の買い替えを考え始めると、それまで気にしていなかった車種を街で何度も見かけるようになる。
住宅広告が急に増えたわけでも、同じ車が突然たくさん走り始めたわけでもありません。自分の中に関心が生まれたことで、それまで背景だったものが情報として前に出てきます。世界が変わったのではありません。自分の受け取り方が変わった。私は、その状態を「レセプターが開いている」と捉えています。
問いは、アンテナの向きを決める
では、そのレセプターは何によって開くのでしょうか。その一つが「問い」だと思っています。前回、問いを「メガネ」にたとえました。今回はもう一つ、問いは「アンテナの向きを決めるもの」と考えてみると分かりやすいかもしれません。
たとえば、「どうすればもっと売上を上げられるだろう」という問いを持っている時には、価格、営業方法、広告、販売チャネルといった情報に目が向きやすくなります。一方で、「お客様は、なぜ私たちを選んでくれているのだろう」と問いを変えると、拾う情報も変わります。商品そのものではなく、担当者との関係性かもしれない。対応の速さかもしれない。相談しやすさや、説明の分かりやすさかもしれません。
どちらが正しいということではありません。問いが違えば、アンテナの向きが変わる。その結果として、同じ現実から受け取る情報も変わってくる、ということです。
仕事では、「情報がない」のではなく「受け取れていない」ことがある
私たちは、日々多くの情報に触れています。売上や利益、仲間の様子、顧客の声、市場の変化、採用、競合、取引先との会話。情報が足りないというより、多すぎると感じることの方が多いかもしれません。
それでも、後になってから気づくことがあります。「あの時、すでに兆候はあった」「あの人は、前から何かを伝えようとしていた」「お客様の言葉の中に、すでにヒントがあった」振り返ってみると、情報は存在していた。でも、その時には意味のある情報として受け取れていなかった。
長く同じ会社にいるほど、見えにくくなるものもあるかも知れません。当たり前になった文化、いつもの会議、昔から続いている仕事、特定の人への負荷、顧客との関係性。毎日見ているからこそ、背景になってしまうものがあるのではないでしょうか。
だからこそ、情報を集めることと同じくらい、問いを持つことが大切なのだと思います。どんな問いを持つかによって、拾える情報の種類も変わります。
「問題は何か」という問いだけでは、拾えないものもある
仕事では、「問題は何か」とよく考えがちです。もちろん、大切な問いです。問題を特定し、原因を考え、改善する。経営において欠かせない考え方です。
ただ、問題だけを探していると、問題らしいものに注意が集まりやすくなります。売上の低下、社員の退職、納期の遅れ、クレームの増加。そこから原因を探し、対処することになります。
一方で、「今、何が起きているのだろう」「以前と比べて、何が変わってきているのだろう」「まだ問題にはなっていないけれど、気になることは何だろう」と問いの角度を変えると、別の情報も入ってきます。問題になってから気づくのではなく、その前の小さな変化に気づく。あるいは、問題ばかりを見るのではなく、自然にうまくいっていることに目を向ける。
問いは、問題を見つけるためだけではなく、変化の兆しや可能性を受け取るためにも使えるのだと思います。
情報量よりも、「受け取る準備」が大切な時がある
「見えないゴリラ」の実験では、ゴリラは最初から映像の中にいました。情報がなかったわけではありません。ただ、注意が別のところに向いていたことで、その情報を受け取ることができなかった。仕事でも、似たことがあるのだと思います。
市場を調べる。専門家に聞く。本を読む。分析する。新しい人に会う。外から新しい情報を得ることは大切です。ただ、それと同時に、すでに目の前にあるものを受け取れているだろうか、と考えてみてもいいのではないでしょうか。
社員が何気なく話したこと。顧客から繰り返し言われていること。数字のわずかな変化。自分の中に残る小さな違和感。必要な情報は、まだ見つかっていないのではなく、すでに目の前にあるのかもしれません。
問いは、その情報を受け取るためのアンテナの向きを変えます。第1回では、問いは「見るためのメガネ」だと書きました。今回の話を重ねるなら、問いは「自分のレセプターをどこに開くのかを決めるもの」とも言えそうです。
最後に、一つ問いを置きたいと思います。
今、自分はどんな問いをもって、仕事や日常を見ている傾向がありますか。そして、その問いを少し変えたとしたら、これまで背景にあった何が、情報として見えてくるでしょうか。
