経営者の方と話していると、「考える時間がない」という話が出ることがあります。ただ、本当に時間がないのかというと、少し違うように思います。

毎日、仕事はしています。顧客と話し、社員から相談を受け、数字を見て、営業をする。採用について考え、メールやメッセージを返し、何か問題が起きれば対応する。経営者の一日は、たくさんの仕事と判断で埋まっていきます。

時間だけではありません。頭の中の容量も、日々のタスクでいっぱいになっていきます。

そんな状態で、「時間ができたら、これからの経営について考えよう」と思っていても、その時間はなかなかやってきません。一つ仕事が終われば、また次の仕事が入ってくるからです。

だから私は、経営について考える時間は、空いたところに入れるものではないと思っています。

重要だから、先に入れる。

それも、経営における一つの意思決定です。

日々の仕事をすることと、経営を考えることは少し違う

目の前の仕事に対応することは、もちろん大切です。今月の売上を見ることも、顧客に対応することも、社員から上がってきた問題について判断することも、経営者の仕事です。

ただ、それだけで一日、一週間、一か月が埋まっていくと、経営は少しずつ「起きたことに対応する仕事」になっていきます。売上が落ちたから営業を強化する。人が足りなくなったから採用する。組織で問題が起きたから仕組みを変える。顧客から要望があったから新しい対応を考える。どれも必要な判断です。

一方で、経営には、まだ起きていないことを考える仕事もあります。半年後、どんな組織でいたいのか。今の事業を、この先も伸ばしていきたいのか。次の売上をどこにつくっていくのか。これから必要になる人材は誰なのか。今のうちに育てておくべき人は誰なのか。何を始め、何をやめるのか。

こうしたことは、今日考えなくても明日の仕事が止まるわけではありません。だから後回しにできます。

しかし、重要ではないわけではありません。むしろ半年後、一年後に振り返ったとき、会社の現在地を大きく左右しているのは、こうした問いにいつ向き合ったかだったりします。

未来のための仕事を、今日の仕事にする

経営について考える時間を先に取ることの一番の意味は、未来のための仕事を、今日の仕事にできることだと思っています。

採用に困ってから人について考えるのではなく、その前に組織を見る。売上が落ちてから次の事業を考えるのではなく、今の事業がうまくいっているときからその先を考える。関係性に大きな問題が起きてから向き合うのではなく、小さな違和感の段階で立ち止まる。

日々のタスクで容量がいっぱいになっていると、どうしても目の前にあるものが大きく見えます。そこから少し離れて考える時間を持つと、まだ数字には表れていないことも見えてきます。

最近、この仕事に時間を使い過ぎているのではないか。この人には、そろそろ別の役割を任せてもいいのではないか。売上は悪くないけれど、この事業をこのまま続けたいのだろうか。以前から少し気になっていた違和感は、一度きちんと考えた方がいいのではないか。

こうしたことは緊急ではありません。だからこそ、日常の中では流れていきやすい。でも、その小さな違和感や可能性の中に、次の経営判断につながるものがあることもあります。

経営を考える時間を先に取ることで、問題が起きてから動くだけではなく、自分たちが起こしたいことのために先に動けるようになる。

ここに、大きな違いがあります。

考える時間は、仕事を増やすためだけではない

経営について考えるというと、新しい戦略を考えたり、新しい施策を増やしたりするイメージがあるかもしれません。私は、必ずしもそうではないと思っています。

むしろ、考える時間があるからこそ、「これは、もうやらなくてもいいのではないか」という判断ができます。

今やっている仕事は、本当に自分がやる必要があるのか。この会議は今も必要なのか。この事業に、これだけの時間を使い続けるのか。自分たちが行きたい未来から見たとき、今の優先順位は本当に合っているのか。

日々のタスクの中にいると、「どうやって全部やるか」を考えがちです。しかし、少し離れると、**「そもそも、全部やる必要があるのか」**と考えることができます。

経営を考える時間は、仕事を増やすためだけの時間ではありません。余計なものを減らし、重要なものに人やお金や時間を振り向けるための時間でもあります。

その結果、忙しさそのものを増やすのではなく、自分たちが本当に進みたい方向へ、力を集めることができる。

これも、経営を考える時間が生む大きな価値です。

考える時間があると、違和感を拾える

日々の経営では、数字として問題になる前に、なんとなく感じていることがあります。

最近、組織の空気が少し変わった。以前ほど顧客との対話に手応えを感じない。自分自身が、ある仕事に以前ほど熱を持てなくなっている。ある社員の成長に、何か可能性を感じている。

まだ問題とは言えない。まだ計画を変えるほどでもない。だから、そのままになりやすい。

しかし、経営を考える時間があると、そうした小さな感覚を言葉にできます。

「何か変だと思っていたけれど、これだったのか」「数字にはまだ出ていないけれど、ここは今のうちに見ておこう」「これは問題ではなく、むしろ次の可能性かもしれない」。

違和感は、すべてが正しいわけではありません。ただ、忙しさの中で消してしまえば、検討することすらできません。

容量を空けて考えることで、まだ形になっていないものを、経営の議題に戻すことができます。

第1回、第2回で書いてきたことも、時間がなければ続かない

第1回では、現在だけではなく、未来と過去を行き来しながら経営を見ることについて書きました。今の課題を見て、未来へ行き、過去へ戻ってその人や会社の型を見つけ、もう一度未来を見て、現在へ戻ってくる。

第2回では、自分で決めたことを結果につなげるために、プロのパートナーと取り組むことについて書きました。実際に動き、結果を見て、何が機能したのか、どの関係性が機能したのかを振り返り、必要なら調整し、立て直す。

どちらも、日々のタスクをこなしながら片手間でやるには難しい仕事です。

未来を見ることも、過去から自分たちの型を見つけることも、結果から学ぶことも、次の判断をすることも、意識して時間を取らなければ後ろへ流れていきます。

だから、重要な仕事として先に時間を取る。ここまで含めて、伴走型コンサルティングなのだと思っています。

プロのパートナーとの時間を、先に入れる

伴走型コンサルティングを続けていると、私たちに求められているものは、知識や助言だけではないと感じます。もちろん、必要であれば専門的な視点を提供しますし、意見も伝えます。

ただ、それと同じくらい大切なのが、経営者が経営について考える時間そのものを、経営の中に組み込むことです。

プロのパートナーとの時間が先に予定に入っている。その時間になったら、日々のタスクから少し離れて現在地を見る。

最近、何が起きているのか。何が機能しているのか。何に違和感があるのか。以前決めたことは、どんな結果につながったのか。この先、どこへ向かいたいのか。そのために、次に何をするのか。

一人でも考えることはできます。ただ、一人だと、いつもの前提の中を回ってしまうことがあります。

プロのパートナーがいれば、問いが入ります。自分では見えていないところを指摘されることもあります。必要なら専門的な視点も入ります。そして、自分の考えを相手に説明することで、曖昧だったものが言葉になっていきます。

考える時間を確保することと、考える相手を持つこと。この二つが重なることで、その時間は単なる予定の空白ではなく、経営そのものを前へ進める時間になります。

その時間があることで、経営の景色が変わる

経営について考える時間を先に取ったからといって、その翌日に売上が大きく伸びるわけではありません。

でも、その時間があることで、日々の仕事だけでは見えなかったものが見えてくることがあります。

ずっと頭の片隅にあった違和感を、初めて言葉にできる。目の前の問題について話していたはずなのに、その先に「本当は、こんな会社にしたい」という景色が見えてくる。やることを増やすのではなく、「これは、もうやめよう」と決められる。人に任せることを決められる。今すぐ結果にはならなくても、半年後のために今日から始めることが見つかる。

そして、その時間が終わるころには、**「では、次はこれをやろう」**と、自分で決めて日常へ戻っていく。

私は、経営者にとって、こういう時間があることはとても豊かなことだと思っています。

毎日の仕事に追われながら会社を経営するだけではなく、そこからときどき少し離れて、自分はどんな会社をつくりたいのか、誰とどこへ向かいたいのかを考える。そして、そこで考えたことを日々の経営へ戻していく。

それを続けていくことで、経営は少しずつ、目の前への対応の連続から、自分たちが望む未来をつくる意思決定の連続へ変わっていきます。

未来のための仕事を、今日の仕事にする

日々の仕事がなくなることはありません。明日も顧客から連絡が来るでしょう。社員から相談されるかもしれません。数字も見なければなりませんし、想定していなかったことも起きます。

だから、すべてが落ち着いてから経営を考えようとすると、その順番はなかなか回ってきません。

時間ができたら考えるのではなく、重要だから、先に時間を取る。

そうすることで、まだ起きていない未来について考えられます。小さな違和感を拾い、今やらなくていいことを決め、人やお金や時間をこれから重要になるものへ先に振り向けることができます。

そして、問題が起きてから動くだけではなく、自分たちが起こしたいことのために、今から動くことができる。

経営を考える時間を先に取るのは、忙しさから離れるためではありません。未来のための仕事を、今日の仕事にするためです。

その時間を、プロのパートナーと持つ。そして、そこで見えたものを、また現実の経営へ戻していく。

私たちが現場で求められることが多いのは、こうした時間を経営の中につくり、そこで見えたものを次の意思決定につなげていく伴走です。