売上が思うように伸びない。組織にも課題がある。何かを変えなければならないことは分かっている。
何かを変えなければならない。そう感じていても、何から変えるべきなのかが分からない。
経営をしていると、そんな時期があります。
売上が気になれば、営業や商品を見直す。組織に問題が起きれば、採用や人員配置、マネジメントを考える。資金や顧客の問題があれば、それにも対応しなければなりません。
経営者が目の前の課題を見るのは、当然のことです。社員も、顧客も、取引先も待ってはくれません。今日判断しなければならないことがあります。
だからこそ私は、経営について考えるとき、ときどき時間軸を大きく動かすことが必要だと思っています。
少し大げさに言えば、タイムトラベラーのように、経営を考えるということです。
まず、今を一緒に見る
私が伴走するとき、いきなり未来の話から始めるわけではありません。
まず聞くのは、こんなことです。
「今、何が一番気になっていますか」
「何に困っていますか」
「何に引っ掛かっていますか」
売上かもしれません。組織かもしれません。新しい事業かもしれません。あるいは、明確な問題にはなっていないものの、「このままではいけない気がする」という違和感かもしれません。
伴走するうえで、私が第一義的に大切にしているのは、クライアントが見ているものを、私も見ることです。
外から会社を見て、いきなり「本当の問題はここです」と答えを出すことではありません。
その人が何を見ているのか。何を問題だと感じているのか。何を守ろうとしているのか。
まず、その現在地に立ってみる。
伴走は、そこから始まります。
次に、時間を未来へ進める
現在地が見えてきたら、今度は時間を先へ進めます。
3か月先、半年先、1年先。場合によっては、さらに先まで見ます。
目の前の課題に向き合っていると、どうしても思考の時間軸は短くなります。
今月の売上をどうするか。次の採用をどうするか。この組織課題をどう解決するか。
もちろん、それらは重要です。
ただ、1年先から現在を見ると、同じ問題でも意味が変わることがあります。
「今月の売上をどう上げるか」ではなく、「1年後、どのような事業になっていたいのか。そのために、今どんな顧客と向き合う必要があるのか」という問いになる。
「人が足りないから採用する」ではなく、「1年後、どんな組織になっていたいのか。そのために、本当に今採用すべきなのか」という問いになる。
目の前の問題を無視するのではありません。
見る時間軸を変えることで、目の前の問題の見え方を変えるのです。
未来を見たあとに、過去へ戻る
ここで、そのまま未来から逆算して計画をつくることもできます。
私は、その前に一度、過去を見ることがあります。
これまで、どんな仕事をしてきたのか。どんなときに力を発揮してきたのか。なぜ今の事業を始めたのか。どんな顧客から支持されてきたのか。苦しい時期を、どのように越えてきたのか。何を変えてきて、何だけは変えなかったのか。
過去を見るのは、問題の原因を探して反省するためだけではありません。
その人や会社の歴史を見ていると、何度も繰り返し現れているものがあります。
私はそれを、その人や会社の**「型」**のようなものとして見ています。
変えるべきものと、変えてはいけないもの
経営が苦しいときほど、人は「変えなければ」と考えます。
数字が悪ければ、商品を変える。営業方法を変える。価格を変える。組織を変える。
変えることが必要な局面は、もちろんあります。
ただ、ここで気をつけなければならないことがあります。
問題と一緒に、その人や会社の良さまで消してしまうことです。
数字だけを見れば、効率の悪いものに見えるかもしれない。市場だけを見れば、別のやり方の方が合理的かもしれない。
でも、なぜそれを大切にしてきたのか。なぜ、そのやり方で人から支持されてきたのか。なぜ、そこだけは譲らずに事業を続けてきたのか。
歴史をたどると、そこに、その人らしさや会社らしさが現れていることがあります。
良さや強みもあります。本人が当たり前すぎて気づいていない力もあります。
ベルーフでは、そうした一人ひとりに固有の力を「タラント」や「ミナ」という言葉で捉えることがあります。
それは、診断や分類だけから見つけるものではありません。
その人が実際に歩いてきた歴史の中に、何度も現れています。
私は、その型を一つの「デザイン」だと考えています。
未来へ進むために変化することは必要です。
だからといって、その人や会社のデザインまで壊す必要はありません。
むしろ、その人らしさや強みが、これからの環境の中でどうすればもっと生かされるのかを考える。
その方が、未来に対する納得感は高くなります。
「実現できそうな未来」ではなく、「実現したいと思える未来」へ
事業計画だけを考えるなら、実現可能性の高い未来を描くことはできます。
市場を見る。数字を見る。経営資源を見る。
そこから、「この会社なら、このくらいまで行けそうだ」と考える。
それも大切です。
ただ、それだけでは十分ではないと思っています。
「実現できそうな未来」と、「この人が実現したいと思える未来」は、同じではないからです。
合理的には正しい。数字も合っている。市場性もある。
でも、その未来を見た本人が、本当にそこへ行きたいと思えるのか。
そこは、とても大切です。
だから、未来を見たあとに過去を見る。
過去から、その人の型を見つける。
そして、もう一度未来を見る。
すると、最初に描いた未来とは少し違う景色が見えてくることがあります。
「この人ならできる未来」ではなく、**「この人が、自分の未来として引き受けたいと思える未来」**が見えてくる。
もちろん、やりたいことだけを優先するわけではありません。
事業として成立するのか。顧客に価値を提供できるのか。組織として持続できるのか。数字は成り立つのか。
そうした現実も、同時に見ます。
その人らしさと、事業としての現実。
どちらかを捨てるのではなく、その両方が成立する場所を探していく。
私は、それも伴走者の役割だと思っています。
そして、現在へ戻ってくる
ここまで来たら、もう一度、現在へ戻ります。
1年後にそこへ行くのであれば、半年後にはどこまで進んでいる必要があるのか。
3か月後はどうか。
来月は何をするのか。
では、今週は何をするのか。
未来を語って終わるのではなく、具体的な計画へ落としていきます。
こうして考えてみると、私がクライアントと行っていることは、時間の中を何度も行き来することなのだと思います。
現在を見る。未来を見る。過去を見る。もう一度未来を見る。そして、現在へ戻ってくる。
少し大げさに言えば、クライアントと一緒にタイムトラベラーになるようなものです。
伴走者だけが未来へ行って、「こちらへ来てください」と手招きするのではありません。
まず、同じ現在に立つ。
一緒に未来を見る。
その人が歩いてきた過去へ戻る。
そこで見つけた、その人らしさや強みを持って、もう一度未来を見る。
そして、
「ここへ行きたい」
と思える場所から、今やるべきことを考える。
伴走とは、ただ隣を歩くことではありません。
その人が「ここへ行きたい」と納得できる場所を一緒に見つけ、そこから現在をつくっていくこと。
そのために私は、クライアントと一緒に、時間の中を行ったり来たりしています。
